俺は今まで色々なところをさすらってきたわけだが、普通の人間の旅行とは趣が違っていた。
大抵の場合、旅とは目的地を訪れ何がしかのものを観、体験してくるものであろう。 その根本の時点で明らかに俺の旅は異常だ。
俺の旅には基本的に目的地が無い。 どこかに向かうのが旅行だとするのなら、俺のそれは旅行ではないのかもしれない。 放浪、と言ったほうがしっくりくるだろうか。
目的に辿り着くための移動ではなく、歩き続ける事それ自体に意味があるような気がする。 此処じゃない何処かへ行こうとしているだけの時期もあった。
自分が知らない土地に行きたいという欲求はそれ程無かった、情報の溢れかえる現代に本当に見知らぬ土地なんてそうそうあるものじゃないと知っていた。 むしろ自分を知らない土地に行きたかった。
俺に関する情報は得体の知れない旅人だという事だけ、それでも意気投合する奴に出会うことはできる。 そんな奴らと杯を酌み交わし、雑魚寝をしながら他愛の無い事を語り合う。 俺には目的地なんて無くても、そんな夜がたまにあれば良かったんだろう。
しかし、だ。
やっぱり俺にも行ってみたい場所ってのは存在する。 そろそろ目的地を目指す旅をするのも良いのかもしれない。
とりあえずは富士山に登ってきたが、こいつがなかなか気持ちが良かった。 それなりにきつかったが爽快感の方が上回った。
後はやはり熊野古道が気になる、遠野郷や花巻なんかの岩手方面にも興味がある。 知床で風に吹かれてみたいし、信州蕎麦も食ってみたい。
そんな憧憬を胸に抱えながらも、日本に住んでいる以上は稼がなければ食えないのである。 もうそろそろ落ち着かねばならない年頃のようだ。
非常に腹立たしい。
「持ち物は少ない方が良い、捨てられないものが増えるとその分身動きが取れなくなる。自由が減る。」 文面は違うだろうがそんな事をスナフキンが言っていた。 そうなんだよな~としみじみ同意してしまう俺は、やっぱり少々おかしいんだと思う。
だけど仕方が無いから働くよ。うん。
あっ、石を投げないでっ